円安傾向が外国株式投資を促した?「先進国株式」への資金流入額が歴史的な規模に=DC専用ファンド(2024年5月)
DC専用ファンドの2024年5月の純資金流出入額(速報値)は約986億円の資金流入超過になった。資金流入超過は2020年12月以降42カ月連続、流入額の規模は2023年3月(1,150億円)以来の高水準になった。流入額のトップは「先進国株式」で流入額635億円は2015年1月以来最大の流入額になった。また、「バランス」に213億円の資金流入があった。「バランス」の資金流入額が200億円を超えるのは、2023年6月(流入額:227億円)以来、11カ月ぶりのこと。一方、前月は流入額でトップだった「国内株式」(前月の流入額:240億円)は、一転して8億円の資金流出になった。5月は1ドル=155円を超える円安・ドル高局面となり、国内よりも海外への投資に資金が向かいやすかったと考えられる。
DC専用ファンド全体の純資産総額は約13兆4,784億円と前月から約2,340億円増加して7カ月連続で過去最高を更新した。残高の内訳は、株式ファンド55%、債券ファンド12%、バランスファンド31%という割合で、前月と比較してバランスファンドの比率が1%ポイント低くなった。(※個別のDC規約では、DC専用ファンド以外のファンドを制度に採用している場合があるため、DC専用ファンド全体の純資産総額は、国内DC制度全体で運用されているファンドの残高とは一致しない)
資金流入額のトップは「One DC米国株式(S&P500)」、国内株インデックスも上位に
DC専用ファンドの過去1カ月間の純資金流入額ランキングのトップは、「野村 外国株式インデックスファンド・MSCI-KOKUSAI(確定拠出年金向け)」が前月の第2位からトップに返り咲いた。前月トップの「One DC米国株式(S&P500)インデックスファンド」は第9位に後退し、トップから8位までを先進国株式インデックスファンドが占めた。また、9位と10位は米国株「S&P500」に連動するインデックスファンドとなり、トップ10を全て先進国株式インデックスファンドが占めた。前月はトップ10のうち5銘柄が国内株ファンドだったことから様変わりした。
公募投信市場では、「S&P500」連動型のインデックスファンド、または、新興国を含む全世界株式インデックスである「MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」に連動するインデックスファンドの積立投資に人気が集中している。これに対して、DC市場では、日本を除く先進国株式インデックスである「MSCI KOKUSAI」に連動するインデックスファンドの利用が主流だ。企業型DC市場のスタートは、2001年10月という「失われた30年」の入り口に相当する。国内株式市場が低迷し、「ITバブル」といわれたハイテク株相場、「BRICS相場」といわれた新興国株式ブームなどを捉えて海外投資が進んでいった時期を経験してきた。
これに対して、国内公募株式投信市場は、ネット証券の台頭に伴うインデックスファンドが選好されるようになったのは2015年頃のことだった。ネット専用のノーロード(販売時手数料無料)の低コストインデックスファンドの中で、「業界最低水準の手数料率をめざす」と宣言した「eMAXIS Slim」シリーズが始まった2017年2月には、インデックスファンドが選好される流れが定着していた。当初は、公募投信のインデックスファンドの間でも、日本を除く先進国株式インデックスである「MSCI KOKUSAI」連動型のファンドが人気だったが、「S&P500」のパフォーマンスの高さが認識され始めると、一気に「S&P500」人気に火が付いた。
現在は、2023年までに大幅に値上がりした「S&P500」に割高の警戒感が高まり、出遅れ感の強い新興国株式を含む「MSCI ACWI」連動型のインデックスファンドが人気を集めるようになっている。これは、2024年1月スタートの新NISAが収益非課税期間無制限の長期投資を後押しする制度となり、投資家の間で20年投資、30年投資という超長期投資が意識されるようになったことが大きい。「20年後には中国やインドなど新興国が米国に並ぶ、あるいは、米国を超える経済大国になっている可能性がある。長期投資には、これから高い成長が期待できる新興国にも投資しておくべきだ」というもっともらしい主張が強くなったからだ。
この遅れて始まった公募投信市場のインデックスファンドブームが、今、DC市場にも影響を与え始めている。「S&P500」に連動するインデックスファンドが資金流入額上位に食い込み始めたのは、その流れの始まりだろう。
トータルリターンのトップは「DC次世代通信関連 世界株式戦略ファンド」
個別ファンドの過去1年間のトータルリターンランキングトップは、前月は2位だった「DC次世代通信関連 世界株式戦略ファンド」になった。前月まで4カ月連続でトップを維持した「DCトヨタ自動車/トヨタグループ株式ファンド」は第2位に後退した。資金流入額ランキングは先進国株式インデックスファンドが独占してしまっているが、パフォーマンスのランキングでは、日本株ファンドがトップ10の半数である5ファンドがランクインしている。また、先進国株式インデックスファンドの1年トータルリターンが38%程度、「S&P500」が41%程度に対し、ランキング上位は1年で40%台後半のトータルリターンの水準になっている。アクティブ運用の力を見せつけたパフォーマンスだ。
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