ジワリと進むiDeCoの商品改定、みずほ銀は運用商品に人気のアクティブファンドを投入
個人で準備する年金として利用者が拡大しているiDeCo(個人型確定拠出年金)の商品改定がジワリと進んでいる。iDeCoの商品性の見直しは、公務員や第3号被保険者(専業主婦・夫)の加入が認められた2017年1月の前後で大きな改定があり、ネット専業証券のSBI証券や楽天証券が「運営管理機関手数料を無料とする」と打ち上げ、それに追随する金融機関が現れた。また、その後、公募投信で進んだノーロード・低コストのインデックスファンドをiDeCoの商品ラインナップに取り入れる動きが2018年半ばを前後して続いた。その後、大規模な商品改定が一巡していたが、昨年の夏以降になって、再び動きが出始めた。
「先立つものはカネ」、コロナ禍で増えた貯蓄
昨年の4月に新型コロナウイルスの感染拡大によって、「緊急事態宣言」が出され、不要不急の外出の自粛や在宅勤務の推奨、そして、飲食店の営業時間の短縮などが要請され、国内の旅行・観光業や小売店・飲食店の経営が一気に厳しくなった。一部では、弁当等の宅配がブームとなるなどの新しい動きも出たが、全体的には短時間労働者を中心に雇用状況が厳しくなり、厚生労働省が発表している「新型コロナウイルスの影響による解雇・雇止めの人数」は、昨年5月以降に約1万7000人程度から、月を追うごとに増大し、その累積人数は今年3月12日時点までで約9.6万人に達している。思わぬところで職を失うことが起こり得ることを国民の全体で実感した。
その結果なのか、総務省が発表した2020年の家計調査によると、2人以上の勤労者世帯の貯蓄は2019年に比べて月平均で17万5525円増えた。世帯主の収入は、残業の減少などによって減額しているにもかかわらず、データが比較できる2000年以降では最大の増加額になっている。昨年5月以降に全国民に一律10万円を支給した特別給付金は、ほとんど使われずに貯蓄に回ったという部分も大きいといわれる。また、この貯蓄に回った資金の一部は、投資信託などの購入を通じて株式市場に流れ、今年2月に日経平均株価が30年半ぶりに3万円の大台を回復した原動力の1つにもなったとされる。
「いざという時のために貯金する」というのは、日本の国民が持っている習慣のようなものといえるだろう。「先立つものはカネ」という言葉もあるとおり、何をするにも、まずは現金が必要という感覚は、多くの国民に共通している。
ただ、近年は、この「先立つものはカネ」が、「現金」とは限らなくなってきている。超低金利で銀行や郵便局に預貯金を預けているだけではお金が増えない時代となり、多少の元本変動リスクはあっても、投資信託等を使って「投資をする」という選択をする人が増えている。その手段として使われているのが、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」であり、「つみたてNISA」という投資収益非課税の制度だ。iDeCoの加入者は、2019年12月に146万5487人だったものが2020年12月には181万7196人と35万1809人増え、つみたてNISAの口座は、2019年12月末に189万230口座だったものが2020年12月末には302万8259口座と1年間に113万8029口座も増えた。
地方銀行でも進む手数料引き下げ競争
このような積立投資ブームを後押ししている要因の1つが、iDeCoやつみたてNISAの商品性の拡充だ。つみたてNISAについては、取り扱い商品の拡充があり、例えば、松井証券はネット専業証券の中ではつみたてNISA対象の投信の取り扱い本数が少ない方だったが、2020年に商品数を拡充し、品ぞろえがトップであるSBI証券に迫るほどに増やした。一方、iDeCoの場合は、金融機関手数料の引下げ、あるいは、運用商品ラインナップの拡充という2つの軸で商品性の拡充が図られている。
たとえば、西日本シティ銀行は2020年5月に「恋するiDeCo」の金融機関手数料を毎月326円から289円に引き下げた。従来は、地方銀行の多くは、iDeCoについては、所得控除のメリットが大きく、事務取扱の手間もかかることから、月額275円~418円程度の金融機関手数料を取ることが一般的だった。西日本シティ銀行の手数料は、地方銀行の平均的な水準であったが、地元で競合する福岡銀行の手数料の月額309円よりは高かった。今回の引下げによって、地域で最も手数料水準が低い銀行ということになった。もちろん、福岡支店などのあるみずほ銀行や三井住友銀行、野村證券などには金融機関手数料無料のプランがあり、同じく金融機関手数料が無料のSBI証券などのネット証券を利用することも可能だが、地域の支店網や日常的な取引において歴史的な取引関係のある地域銀行として、iDeCoでも積極的な姿勢が感じられる動きだった。
また、確定拠出年金専業の損保ジャパンDC証券も今年5月引落分から、金融機関手数料を月額330円から302円に引き下げる。確定拠出年金専業の金融機関としては他社をリードすることになる。このような動きが、今後も続くことが考えられる。
みずほ銀行は最も人気のあるアクティブファンドをiDeCoに!
一方、既に金融機関手数料を無料にまで引き下げてしまっている金融機関では、みずほ銀行が運用商品の拡充に動いた。今年3月から「グローバル・ハイクオリティ成長株式ファンド(愛称:未来の世界)」と「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(愛称:未来の世界(ESG))」をiDeCoの運用商品に採用した。いずれも、公募投信として人気の2ファンドだ。「未来の世界(ESG)」は純資産残高が1兆円を超え、「未来の世界」も7000億円をこえて、日本を代表するような巨大なファンドに成長している。この公募投信で最も売れているファンドを、iDeCoでも使えるようにするのは、非常に大きなアピールポイントになると感じられた。
「金融機関手数料の無料化」、そして、「低コストのインデックスファンドの採用」によって、iDeCoの商品性の改善は極まったかと思われていたが、みずほ証券が取り組んだのは「アクティブファンド」における商品魅力の追加だ。手数料率以外に差別化のポイントがないインデックスファンドと比較すると、「アクティブファンド」の分野は、各社の考え方ひとつで、様々な魅力が訴えられる。みずほ証券に負けない魅力のある商品拡充に動く金融機関が現れるかどうか。この面でも注目をしていきたい。
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