900万人の確定拠出年金、あなたが選択している運用商品をご存知ですか?
「確定拠出年金統計資料(2020年3月末)」が公表され、確定拠出年金の運用状況等が明らかになった。3月末時点での加入者数は企業型に個人型を合わせると約881万人(前年比8.52%増)、運用資産総額は約15.75兆円(同9.16%増)になった。今年10月の時点で個人型(iDeCo)の加入者数が175.6万人と3月末比で約20万人増加しているので、確定拠出年金全体では900万人を超える加入者を抱えていると考えられる。ただし、その加入者の運用状況(運用商品選択状況)は、預貯金などの元本確保型の商品比率が51.95%と相変わらず過半数を占めている。特に、20歳代という投資リスクが取れる世代で52.35%が元本確保型で運用しており、せっかくの制度が十分に活用されていない残念な状況にある。
データ出所:「確定拠出年金統計資料」
モーニングスター作成
確定拠出年金制度全体での元本確保型運用比率は2019年3月末が51.67%だったため、2020年3月末は元本確保型での運用比率がむしろ高まっている。企業型で投信・金銭信託等での運用比率が49.0%から48.1%に低下した影響だ。個人型は投信等での運用比率が43.7%から45.5%に高まっていることと対照的な動きになっている。
企業型の年代別の運用状況は、投信等の比率が20歳代45.8%と50歳代の46%より低い。最も投信等での運用に積極的な40歳代で52.6%にまで高まるため、若い世代で運用への意識が低いことがうかがえる。一方、個人型の20歳代の投信等での運用比率は61.2%と、他のどの世代よりも比率が高い。50歳代に投信等での運用は43%に低下し、運用の最終段階に向けてリスクを落とすという資産運用理論に則った運用が実施されていることが分かる。
調査時点が、コロナショックで株価が世界的に急落したタイミングであるため、イレギュラーな結果になっている可能性もあるが、2019年3月末に遡っても企業型の20歳代の投信等での運用比率は43.7%と50歳代の47.0%より低いため、企業型の20歳代は投信等での運用比率が低い傾向があるといえる。個人型は19年3月末の投信等での運用比率は56.0%だったため、20年3月末は一段と投信等への投資比率が高まっている。
今年は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で、将来生活の防衛意識が高まったのか、資産運用に関する関心が例年になく高まった1年だといわれている。特に、20歳代-30歳代という若者が、オンライン口座を開設し、株式や投信の購入を積極的に始めている。個人型は、このような動向と同じで、自ら進んで老後の資産形成を行おうと決意した人たちであるだけに、マイナス金利下で預貯金では利息が付かないという現実を正面から受け止め、積極的に投信等を使った運用を行っているのだろう。
一方、企業型の確定拠出年金制度は、制度のある会社に入社した社員は、自動的に加入させられる(前払い退職金との選択制の場合もある)。掛金の拠出も企業が行うため、加入者個人の負担はない。入社時には、必ず社員研修の一環で確定拠出年金があること、自ら運用商品を選択することなどの基本的な制度内容については学ぶ機会があるはずだが、仕事を覚えることの優先順位が高く、確定拠出年金の運用については意識から外れている人が多いのだろう。
制度を所管する厚生労働省では、このように「せっかくの制度を十分に理解せず、活用もしていない加入者が少なくない」という実態を問題視している。企業には、新入社員研修での制度紹介だけでなく、2年目、3年目と社歴を重ねる中でも継続的な投資教育を実施することを努力義務とし、「自らの選択で運用商品を選択し、年金資産を自ら運用する」という制度本来の役割が果たされることを求めている。会社に確定拠出年金が導入されている人は、自身の確定拠出年金口座を開いて、定期預金に指定されている運用商品を「日経平均連動型ファンド」に入れ替えるだけで、過去1年間で積立投資効果を考慮すると20%以上の運用成績をあげることができたはずだ。
確定拠出年金制度には企業型、個人型含めて年間延べ70万人が新規加入している。来年の今頃には、加入者1000万人へのカウントダウンが始まっていることだろう。1000万人が自ら選んで資産運用する制度のインパクトは決して小さくない。今現在、自身が確定拠出年金に加入しているのであれば、是非、運用状況を確認し、現在の運用商品について今のままで良いのか考えてほしいと思う。
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