資産管理コラム

企業型DCで1億円をつくる、国内投信で30年投資の現実からみえるマッチング拠出の重要性

2020/12/29 19:14

 2021は日本に確定拠出年金(DC)が誕生して20周年を迎える。2001年10月にスタートしたDC制度は、様々な制度改革を経て、現在までに900万人以上が加入する大きな制度に成長した。ただ、米国で「401k(企業型DC)」が知られ、活用されているほどには、日本でのDCの活用は一般化していない。それは、毎年のように「401kミリオネア(100万ドル資産家)」の話題が出る米国と日本との圧倒的なパフォーマンス(運用成績)の差があるためと考えられる。誰だって、定年退職を迎えた先輩から「1億円の資産をDCでつくった」と聞けば、関心を持たぬはずがないだろう。現存するファンドの運用成績の推移を使って、日本で「DCミリオネア」の誕生は可能なのかをシミュレーションしてみた。

 現存するファンドで、長期の運用成績の記録があり、かつ、その運用成績が優れたファンドを選ぶとJPモルガン・アセット・マネジメントが設定・運用する「JPM アジア・成長株・ファンド」がある。1991年7月19日の設定で、設定来29年5カ月間余りの運用実績がある。このファンド以前に設定されたファンドで現存するのは、日本株を運用対象としたファンドなので、残念ながら、このファンドほど運用成績が良くない。「JPM アジア・成長株・ファンド」の設定来のトータルリターンは2020年11月末現在で年率平均10.60%になる。年間10%成長を約30年間にわたって続けている非常に優秀なファンドだ。10,000円で始まった基準価額は、分配金を再投資していくと8万3,957円と8倍強になっている。

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モーニングスター作成

 このファンドを使って、設定直後の1991年7月末から、毎月末に1万円ずつ積立投資を継続して行ったとする。2020年11月末までに353カ月(29年5カ月間)での元本が353万円に対し、積立投資の評価額は1,509万円になった。ミリオネア(1億円の資産家)には程遠いことになってしまった。1991年に29歳だった人が、いよいよ60歳を迎えるのが2020年だ。結婚し、子どもをもうけて、住宅を購入していれば、住宅の頭金の準備や、子どもの大学入学資金などの資金需要を乗り越えて、かつ、国内の金融危機(1997年)やリーマンショック(2008年)、コロナショックなどの不況期のボーナス減額危機などに遭遇しても積立を止めずに継続した結果が約1,500万円だ。

 もちろん、2万円の継続投資が可能だった人は、約3,000万円をつくることができる。毎月3万円を積み立てられた人は4,500万円だ。ただ、子育てをしながら毎月3万円の積立を継続することは、相当しっかりとした目標意識をもって、夫婦の協力の下で計画的な家計のやりくりをする必要があるのではないだろうか。しかし、それほどしっかりと計画して毎月3万円を積み立てても、結果的に得られる資金は4,500万円で「ミリオネア」には遠く及ばない。やはり、「DCミリオネア」とは、資本市場が発展したアメリカ人にのみ与えられた恩恵なのだろうか。

 アメリカの「401kミリオネア」は、米国DC制度の恩恵を受けている。たとえば、米国では、給与の3%とか5%を401kに拠出すると、務めている企業が3%なり5%なりをマッチング拠出してくれる仕組みになっている。米国の平均給与は2019年に568万円程度だということから、もし、5%を401kに拠出し、会社から5%のマッチング拠出を得ることができれば、年間56.8万円(月間約4.73万円)をDCで運用できている計算になる。そこで、4.73万円を「JPM アジア・成長株・ファンド」を使って約30年間積立を実施したとすると、2020年11月末現在の評価額は約7,139万円になる。運用期間がもう少し伸びれば、1億円にも手が届く計算だ。日本でも米国並みの収入があり、企業からのDC拠出があれば、「DCミリオネア」は不可能ではない。

 先ほどの、毎月の拠出額3万円の場合、現在の企業型DCの1人当たり掛金拠出額(2020年3月末現在、マッチング拠出も含む)は平均で年16万円(毎月1.33万円)になっているため、もし、自社に企業型DC制度がある人は、企業からの拠出額を合計すると4.33万円の積立を行うことができる。毎月4.33万円を「JPM アジア・成長株・ファンド」で積立投資をしていた場合は、6,535万円がつくれた計算だ。

 日本では、国内で企業型DCの拠出が始まったのが2001年10月からだから、最も長い運用期間を持っている人でも20年足らずの運用期間しかない。しかも、運用資産の過半は、元本確保型商品(定期預金や保険商品など)で占められている。また、企業年金は、伝統的な大手企業ではDC(確定給付年金)をメインに置いている企業が多い。確定給付型の企業年金の運用利回りは、企業年金連合会の集計では年2%を下回っている。元本確保型の運用比率が高い場合や、DBではミリオネアの誕生は期待できない。

 米国の「401kミリオネア」は、運用先に自社株が含まれて、S&P500などのインデックスよりも、より高い運用効率で株価が成長した結果、大きな資産形成ができたというケースもある。ちょうど、日本のバブル期に、社員持ち株会で毎月1万円を拠出していた社員が退職時に数千万円の資産ができていたという話を覚えている年配者もいるだろう。また、今でこそ、30年ほど長期の運用成績を残しているファンドは少ないが、過去10年間のトータルリターンで年率20%を超えるような好成績を残しているファンドはある。運用成績優秀なファンドが日本でも育ち始めているのだ。これらの好成績ファンドが、さらに、20年、30年間にわたって高い運用成績を続け、それが企業型DCで採用されれば、日本の国内で「DCミリオネア」が誕生する可能性も高まるだろう。

 もちろん、やみくもに高い運用利回りを求めて、期待リターンが高い・投資リスクも大きなファンドに投資することを勧めるわけではない。ただ、国内で「DCミリオネア」が話題になるような時代がやってくると、国内で資産運用によって豊かな老後生活を送れる人々が増えることになる。現在、社会保障審議会企業年金・個人年金部会では、「月間5.5万円のDC拠出枠」を設けて、5.5万円から企業側の拠出金額を差し引いた残りの枠を、簡便な手続きでiDeCoを使って個人で積立投資ができるようにしようという構想が練られている。毎月5.5万円が非課税で積立運用できる環境が用意されれば、世帯として考えれば、「DCミリオネア」の実現がグンと身近なものになってくる。しかも、企業型DCの拠出期間は従業員の70歳まで延長ができるようになる。そして、65歳を迎えた頃に、5,000万円や1億円という大きな資産ができていれば、その後、年率2~5%で運用できれば、公的年金を受け取りながら、余裕の老後生活が実現できる。積立投資金額によっては、65歳を待たずに早期リタイヤも選択肢になるだろう。

 今、20歳代で、勤務している企業に企業型DCがあるあなたこそ、「DCミリオネア」の候補といえる。今から40年あまりの運用期間がある。この長い運用期間を有効に使って、是非、DCで大きな資産を築き上げることを考えてほしい。資産形成のポイントは、一度運用・積立計画をしっかり立てた後は、忘れてしまうほどに運用から意識を離してしまうことだ。投資先がしっかりと成長する資産であれば、数年に1度のメンテナンスを行うだけで、30年後、40年後に大きな資産の固まりになっているだろう。この年末年始に、是非、将来を展望して資産形成について考える時間を持っていただきたい。
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