厚生労働省は1月1日からiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)を担当する部署の名前を「企業年金・個人年金課」(旧「企業年金国民年金基金課」)に改めた。「企業年金」と「個人年金」が並立する新課名は、これからの時代に個人の力による年金形成が重要な意味を持ってくることを象徴しているようにみえる。折しも、1月1日からiDeCoの加入対象者が大きく広がり、60歳以下の全ての公的年金加入者が加入対象になった。名実ともに新時代を迎えたiDeCoの普及策について、厚生労働省年金局 企業年金・個人年金課長の青山桂子氏にモーニングスター代表取締役社長の朝倉智也が聞いた。
公的年金を補完するiDeCoは企業型と並ぶ大きな制度に
- 朝倉:
- 1月からiDeCoの加入対象者が大きく広がり、金融機関でiDeCoに関する話題を耳にする機会も増えています。iDeCoの現状について、どのようにみていますか?
- 青山氏:
- iDeCoについては、金融機関で盛り上げてくださっていると感じ、大変心強く思っています。昨年秋ごろからは、メディアで取り上げられる機会も増え、金融機関の取り組みも顕在化してきたと感じました。
- 政府広報としてのiDeCo告知キャンペーンは、昨年秋の補正予算が成立したことを受けて準備に取り掛かったため、1月にはすべてが出揃っていません。今後、テレビやラジオでのCMも始まり、徐々に露出も増えていきます。また、厚労省で作ったiDeCoのポスターやチラシなども、金融機関に送付し、必要があれば追加で送ることにしています。今後、金融機関の店舗等でもiDeCoを告知するポスターなどが増えてくると期待しています。
- 朝倉:
- なぜ、今、iDecoなのですか?
- 青山氏:
- 高齢社会を迎え、老後の所得確保が重要な課題として意識されています。年金局としては公的年金を老後所得の柱として位置づけ、制度の充実に取り組んでいますが、実際のところ、マクロ経済スライドなどによって、年金支給額の調整もあります。自分の力で老後の生活の安定を考えることが大事になっています。
青山 桂子氏
厚生労働省年金局 企業年金・個人年金課長
厚生労働省年金局 企業年金・個人年金課長
- また、働き方・雇用形態の多様化によって、従来の厚生年金や企業年金など、「与えられる年金」だけに頼ることもできなくなってきています。iDeCoの加入対象者が大きく広がったこの機会を機に、広く多くの方々に、老後や年金について考える機会をもっていただきたいと思っています。
- これまでの確定拠出年金制度は、企業年金の1つとして企業型を中心に制度の発展を図ってきました。個人型は、企業型で加入していた人が退職後も運用を継続するためなど、企業型を補完する役割でした。今回、公務員や専業主婦(夫)を加え、企業型のある企業の会社員も加入対象に広げたことで、個人型も企業型と並び立つ制度となり、より大きな選択肢としてiDeCoが位置づけられました。
毎月5000円から始められる手軽な年金対策iDeCo
- 朝倉:
- 自分で年金を用意するという点では、若い方々に関心を持っていただきたいという思いを強くします。今回の改正によって、専業主婦や公務員が新たな加入対象者になったのですが、具体的に、どのような層の方々に広げたいというような目標はありますか?
- 青山氏:
- 広く多くの方に利用していただきたいと思います。老後のための資産形成を考えた場合、毎月5000円以上で始められる手軽さ、掛金は全額所得控除、運用益非課税、受取り時も大きな控除など、iDeCoはもっとも効果的といえるほどメリットが大きな制度です。
- また、自営業者の方、そして、企業年金のない中小企業の方々など、従来からの加入対象者の方々にも、この機会にiDeCoへの理解を深めていただき、是非、加入を検討していただきたいと思います。中小企業向けには、iDeCoの加入者に対して、企業側が上乗せ拠出できる制度についてもルールを整備して導入する計画にあります。広く多くの方々が自助による老後の資産形成を始めていただきたいと願っています。
- 朝倉:
- 制度の普及にも関係がありますが、iDeCoに関する手数料について、金融機関の口座管理手数料はずいぶん安くなり、赤字覚悟で口座管理手数料を無料にしているところもあります。一方、国民年金基金連合会(国基連)の手数料は固定され、これを引き下げることはできないのかという声もあります。制度の運営に関するコストについて、どのように考えますか?
朝倉 智也
モーニングスター 代表取締役社長
モーニングスター 代表取締役社長
- 青山氏:
- 金融機関が長期の観点でiDeCoに取り組んでいただいている姿勢にはありがたいことだと思っています。口座管理に関する手数料は、加入者のことを考えれば、低廉であることが望ましいといえますが、金融機関も国基連も、サービスの提供にあたって費用が掛かっていることは事実です。競争は望ましいものの、手数料の水準だけが問題にされてサービスが疎かになるようなことがあってはならないと思います。
- 手数料について大事なことは、手数料が明確に示され、ユーザーが比較検討した上で選べるように、透明性があることだと思います。そして、その状況が第三者によってモニタリングされていることも重要です。
- 朝倉:
- 私どもも、第三者の立場で、運営管理機関のサービス内容を比較、ランキングしています。ちょうど医療現場で、セカンドオピニオンの必要性がいわれているように、資産形成の手段においても第三者の視点による情報提供が必要だと考えるからです。私が昨年末に上梓した『iDeCo(イデコ)で自分年金をつくる』では、運営管理機関各社の運用商品ラインアップや手数料等を比較し、ズバリ、この金融機関のプランが優れていると指摘し、また、具体的なiDeCoの活用アイデアについて紹介しています。このような、第三者機関の取り組みについては、どのように評価していますか?
- 青山氏:
- 中立的な立場で、運営管理機関のサービス内容が評価され、それらが加入者の方々に提供されることは望ましいことだと思います。そのような第三者の情報について、加入者、また、加入を検討している方は、できれば、複数の機関の評価情報を参照するなど、より広い視点で比較検討する姿勢も大事だと思います。
制度の発展のカギを握る「投資教育」は非常に大きな課題
- 朝倉:
- 運営管理機関には投資教育が求められています。この投資教育について、企業型であれば意識の高い企業は、企業の負担でeラーニングを導入し、また、FP(ファイナンシャルプランナー)などによる資産運用相談会を実施しているところもあります。ところが、個人型になると誰が教育するのかがあいまいです。加入者の一人ひとりが自主的に学んでいけばよいのでしょうが、ほとんどの方が、何をどのように学べばよいのかわからないという状態だと思います。
- 青山氏:
- 投資教育については制度が発展していくためには重要な要素だと考えています。運営管理機関が教育を担っていくという仕組みになっていて、この分野も含めた取り組みに期待しているところです。
- 企業型については、好事例を整理して広く企業の間で広める取り組みなども行ってきました。また、投資教育の取り組みが難しいとされてきた中小企業には、企業年金連合会(企年連)に委託する道を開き、企年連で中小企業向け投資教育の検討をしてもらっています。iDeCoでも、どのようなバックアップの手段があるのかを考えていかなければなりません。制度の認知度を高めることを第一に取り組んでいますが、資産形成について個人のリテラシーを高めていくための取り組みは、非常に大きな課題だと感じています。
- 朝倉:
- 制度については「デフォルト商品」や「運用商品数の上限」について、議論が半ばになっています。今後の審議スケジュールは?
- 青山氏:
- 運用委員会を設けて議論することになっていて、その設置の準備をしているところです。2018年6月までには「デフォルト商品の基準」を設け、「運用商品数の上限」についても制度の枠組みとして示すことになっています。ただ、金融機関にはシステム対応など準備の期間が必要なことは認識していますので、遅くとも今年の夏までには何らかの結論を出したいと思っています。
- いろいろな立場で、様々な意見があることを承知しています。それらの意見をまとめていくことは、一筋縄ではいかないと思いますが、制度の理念を守りながら、ワークしやすいことを念頭に意見を集約していきたいと思います。たとえば、運用商品の上限については、iDeCoと企業型で同じ基準を設けるべきかということも議論の対象だと思っています
- 朝倉:
- iDeCoの普及に向け、大きなポイントになるのは若い方々に関心を持ってもらうことだと思います。どのように取り組んでいきますか?
- 青山氏:
- 老後の不安という点では、若い方も専業主婦の方も、それぞれの立場で漠然とした不安があり、「自分でやっていくしかないかな」という思いはあるのではないでしょうか? その手段の一つがiDeCoです。
- 「老後の資産形成」というと、難しいことと考えてしまいがちだったり、まとまったお金が必要と考えがちですが、iDeCoは最初から高度なことを知らなくても始められ、しかも、5000円からできる手軽さがあります。スタートするハードルは低いので、柔軟に考えていただきたいと思っています。
- 3月にiDeCoの普及を目的としたシンポジウムを開催する予定ですが、このシンポジウムは先生の話をかしこまって聞くというものではなく、見たり、手を動かしたりしながら、参加した方々が楽しみながらiDeCoに触れる機会にしたいと考えています。主婦の方や若い方々に多く参加していただきたいと思っています。
- 老後の資産形成は、iDeCoだけではなく、NISAなども含めて、全体の中で無理のない資産形成を進めていただきたいと思います。ただ、様々にある資産形成手段の中で、iDeCoは長期的にみて大きなメリットのある制度です。是非、多くの方々に加入を検討していただきたいと思います。
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